日米要人の「この一言」をもとに、激動の2009年を振り返える

日米要人マーケット関連発言「この一言」をもとに、激動の2009年を振り返える。







【1月】

早川英男日銀古屋支店長(当時)

「輸出・生産は過去見たこともないような勢いで落ちている」

ジェットコースターの下降の途中にいる」

(1月16日日銀支店長会議後の記者会見)



世界経済の大幅な悪化から輸出が急減したため、製造業は減産を強化。1-3月期の鉱工業生産は前期比▲22.1%、前年同期比▲34.6%を記録。自動車産業が集積している東海地区の景況感は、一気に冷え込むことになった。



【2月】

バラク・オバマ米大統領

「今回の危機は、形成されるまでに、長い時間がかかった。(景気対策は)それを一夜にして転換しようとするのではない」「回復は週単位や月単位ではなく、年単位で計られることになるだろう(Recovery will likely be measured in years, not weeks or months.)」

(2月9日インディアナ州演説



バブル崩壊による未曾有の経済落ち込みに対し、1月20日に就任したオバマ米大統領は、2月17日には7870億ドルの大型経済対策に署名した。しかし、構造不況からの脱出までには「年単位」の時間が必要になるであろうことを、大統領はこの時点で明言していた。



【3月】

与謝野馨財務金融・経済財政相(当時)

「株価そのものへの対策は技術的に難しい」

「大変な資金も努力も必要だ」

「どのように物事を正当化できるかという根本の問題もある」

(3月10日経済財政諮問会議終了後の記者会見)



〜 3月は、日経平均株価が一時7000円割れ寸前になるなど株価が急落し、株価対策を行うべきかどうかが議論された。公的資金による株の買い支え(PKO)が政府・与党内で議論されていったほか、日銀が市場から現物株やETFを買い入れるべきだという声も一部にあった。しかし、実際に日銀が決定したのは、国際基準行に対する劣後ローン供与だった。



【4月】

白川方明日銀総裁

日本経済は、1990年代の低成長期においても、何回か一時的な回復局面を経験しました。ただし、このことは、経済が遂に牽引力を取り戻したと人々に早合点させる働きをしたように思います。これは『偽りの夜明け(false dawn)』とでも言うべきものでしたが、人間の常として、物事が幾分改善すると楽観的な見方になりがちです」「厳しい経済危機においては、政策当局者は、経済の一時的な回復――先ほども申し述べたような偽りの夜明け(false dawn)と言うこともできます――を本当の回復と見誤ることがないように注意する必要もあります」

(4月23日ニューヨークで講演)



〜 白川総裁は、構造不況下では循環的な景気回復のシグナルを過大評価すべきではないという「日本の教訓」を、米国人向けに発信した。有名な「偽りの夜明け」発言である

【5月】

サンフランシスコ連銀ジャネット・イエレン総裁

金利は低水準にあり、そうした状態がしばらく続くものと、私は予想している」「私の考えでは、労働市場にかなりの需給の緩み(スラック)がある限り、その見方は正しいだろう」

(5月7日シドニーで開かれた豪企業エコノミスト会合に衛星回線で参加して発言)



〜 イエレン総裁は、失業率が高止まりしている間は利上げに動くべきではないと強く示唆する、ハト派らしいコメントを発していた。米国の失業率は10月以降、10%台に乗せた。
【6月】

ティモシー・ガイトナー財務長官

「中国の(ドル建て)資産は極めて安全だ(Chinese assets are very safe.)」

(6月1日北京大学で行った講演後の質疑応答



〜 1980年代に学生として中国語を学んだ北京大学を訪れたガイトナー長官は、米国債の購入を継続するよう中国に促す発言を行った。すると、聴衆である学生の笑い声が一段と大きくなったという。米国と中国の力関係が変わってきたことを象徴するエピソードである。もっとも中国の側も、外貨準備運用ですでに多額の米国債を抱えており、その値下がりリスクがあることから、外貨準備運用の多様化という面で、身動きが取りにくいわけだが。



【7月】

山口広秀日銀副総裁

「こうして整理してみると、これら3つの要因(1:在庫調整の早い進捗、2:各国が取った政策対応、3:極端な不安心理が薄れてきていること)は、それだけでは経済が自律的に回復し続けること、言い換えれば、民間の最終需要が持ち直してくることを保証するものではないということに気づきます」

(7月22日函館市金融経済懇談会で挨拶)



〜 在庫調整の進捗や景気対策の効果に支えられた上向きの景気指標の動きについて、山口副総裁は、その持続性に懐疑的な見方を前面に出した。



【8月】

藤岡文七内閣府審議官

「所得がボーナスを中心に落ち込んでいる」

デフレ懸念が非常に大きくなっていると判断する向きが多くなっている」

(8月17日記者会見)



〜 企業は収益立て直しのためコスト削減を強化。2009年は夏・冬ともに、大企業のボーナスは前年同期比で10%を超える減少になった。未曾有のマグニチュードで所得が圧迫された家計は、生活必需品を含む支出の絞り込みを強化することになり、「食のデフレ」「衣のデフレ」といった社会現象が発生した。



【9月】

藤井裕久財務相

「他国のような通貨安政策には反対で、円もそう対応すると(ガイトナー米財務長官に)申し上げた」

「意図した為替政策は取らない。為替市場自由経済の牙城で、安易に公が介入するのはどうかと思う」

(9月24日日米財務相会談終了後、記者団に)



鳩山政権には円安誘導的な政策は取るつもりがないことを、藤井財務相ガイトナー米財務長官に説明し、理解を得た。しかし、新政権は円高容認色が濃いとみた市場は、対ドルで思惑的な円買いを強めることになっていった。



【10月】

菅直人副総理国家戦略・経済財政相

「財政構造改革がいま進んでいる。そういう風に考えてもらえれば、財政規律が曖昧金利が上昇しているとは思わない」

「どちらかといえば、世界経済全体の回復の方向をマーケットがこういう形で判断したのだろう」

(10月27日閣議後記者会見)



〜 10月中旬から1カ月ほど、日本の債券相場は「悪い金利上昇」局面になった。鳩山内閣による予算編成が規律を欠き、国債増発額が大きくなるという不安が広がったためである。国内に潤沢なマネーが存在することから、日本では「悪い金利上昇」が持続的なものにはなりにくい。しかし、そうした安心感のある国債消化状況は、決して永続的なものではない。



【11月】

シカゴ連銀チャールズ・エバンズ総裁

「(超低金利政策は)容易に2010年にずれ込むと思うし、率直に言って2010年の年央まで続いても驚かない。最初の利上げは2010年の後半かそれよりも後、おそらく2011年になるだろう」

(11月23日フィナンシャル・タイムズ紙掲載インタビュー



エバンズ総裁は失業率について、2010年春に10.5%でピークをつけた後、数カ月間高止まりするだろうと予想した。地区連銀総裁の間でも徐々に、構造不況の根深さについての認識が浸透しつつあるようである。米連邦公開市場委員会FOMC)声明文に書かれている「より長い期間」という表現の超低金利政策の「時間軸」については、少なくともFOMC会合3回かおそらくそれ以上、少なくとも6カ月間を意味していると、同総裁はコメントしていた。



【12月】

亀井静香金融・郵政担当相

「深刻なデフレ状況に入った。デフレがデフレを呼んでいる」

(12月15日内外情勢調査会で講演)



〜 政府は11月20日日本経済がデフレであると、公式に宣言した。日銀は12月1日の臨時金融政策決定会合でターム物金利の低め誘導を決定。18日の会合では「中長期的な物価安定の理解」を明確化して、デフレは許容しない姿勢であることを内外にアピールした。しかし、金融政策だけでできることは限られる。慢性的なデフレ構造を日本が脱却する道筋は、いつ開けてくるのだろうか。