南仏カンヌで13日(日本時間14日未明)に開幕した第62回カンヌ映画祭。最高賞パルムドールを競うコンペティション部門には世界の巨匠、名匠がずらりと

南仏カンヌで13日(日本時間14日未明)に開幕した第62回カンヌ映画祭。最高賞パルムドールを競うコンペティション部門には世界の巨匠、名匠がずらりと顔をそろえた。公式資料をもとに、今回の映画祭をながめてみよう。


 同部門の参加作品は20本。過去にパルムドールを受賞した監督は4人、コンペ経験者はイサベル・コイシェ監督以外全員の19人。「これ以上はあり得ない」ほどの豪華な顔ぶれは世界の映画ファンを喜ばすが、新たな才能の発掘という映画祭の役割はどこへやらのお祭り状態だ。

 顔ぶれを見てみよう。

 スペインのペドロ・アルモドバルは06年のカンヌで、「ボルベール」が脚本賞、出演者6人が丸ごと女優賞を受賞して話題に。「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」など、女性の心の機微をつややかに描いてきた。今回の新作「BROKEN EMBRACES」は、作家・脚本家としての名と、映画監督としての本名の二つの名前を使い分ける男が映画撮影に行き詰まる。彼は14年前、自身も重傷を負った交通事故で妻(ペネロペ・クルス)を亡くした。いっそ、自分も死ねばよかったのか。クルスは「ボルベール」で、母の亡霊に温かく見つめられながら、切々と歌い、涙した。今度は逆に死んだ妻として、夫の愛と苦悩を受け止め、慈愛を投げ返すのか。

 ヌーベルバーグの一翼を担ったアラン・レネは今年87歳で、映画史に残る人物だ。アウシュビッツ収容所の惨劇を描いた「夜と霧」、露出過多の白い画面を多用して超現実的な物語を映した「去年マリエンバードで」、原爆とナチスの傷を負った日仏の男女の恋を描いた「二十四時間の情事」など名作は多い。今回の「WILD GRASS」は、財布を落とした女と、拾った財布をなかなか返せない男それぞれの日常がかき乱され、ロマンティック・アドベンチャーへと心の扉を開く話。マチュー・アマルリック、サビーヌ・アゼマらが出演する。

 冷徹で寡黙な長回しで心の闇をえぐり出す作品で知られるミヒャエル・ハネケの新作「THE WHITE RIBBON」は、第1次大戦前夜の北ドイツで聖歌隊の少年たちが村から逃亡し、彼らの身に不可解な事件が起き、罰が下される。娘の病気を悲嘆した夫妻が家族3人の人生もろとも歴史から抹殺する作業を黙々と行う「セブンス・コンチネント」など「感情の氷河化」3部作で知られる監督は、過去を題材にとりながら、「今」に峻厳なまなざしを向けるはすだ。

 デンマークラース・フォン・トリアー監督の新作は、コンペ20本の中で最も注目を浴びそうな1本だ。家屋セットを一切排し、スタジオの床に見取り図を描いただけの空間で撮影した「ドッグヴィル」や「マンダレイ」は、映画の作法や枠組みを裏返した。中でも「ドッグヴィル」は、抽象化されたミニマルな空間の中で人間の本性がむき出しになり、ギャングのボスの娘役だった主演ニコール・キッドマンの痛みは演技を超えていたようだった。今回の「ANTICHRIST」は、悲嘆にくれる男女が結婚に失敗して傷ついた心を癒やすため森に行くが、事態は好転しない…。

 血と暴力に満ち、ほとんどホラーに近い作品で知られるギャスパー・ノエ監督の「ENTER THE VOID」は東京で撮影した。監督の荒々しい感性と映像が、東京の闇をどう映すか見ものだ。麻薬の売人として逮捕された兄は、ストリッパーの妹を見放さないと約束した。さまよう2人の姿が幻覚のように渦巻く物語だという。

 同じく東京で撮影したのは、イサベル・コイシェ監督、菊地凛子主演のスペイン映画「MAP OF THE SOUNDS OF TOKYO」だ。魚市場で働きつつ、殺し屋でもあるリュウ(菊地)が殺人を請け負う展開だ。

 ほかに、06年に「麦の穂をゆらす風」でパルムドールを取ったケン・ローチ、同年に審査員として参加したイスラエル生まれのエリア・スレイマン、日本でもおなじみのクエンティン・タランティーノアン・リー、「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオンも。アジアからは、台湾のツァイ・ミンリャン、香港のジョニー・トー、韓国のパク・チャヌク。中国のロウ・イエは06年、天安門事件にほんろうされる女子大生が性におぼれる姿を生々しく描いた「サマー・パレス」(原題)でカンヌに参加したが、その際、中国での上映許可が得られないままの“見切り発車”が話題を呼んだ。今度の新作では、どのような挑戦をしてくるか。どうやら、同性愛を含む三角関係を描いているようだが。「ある視点」部門には、是枝裕和監督「空気人形」が参加している。

 コンペの審査員長は仏の女優イザベル・ユペール。審査員にイ・チャンドンロビン・ライト・ペンら。授賞式は24日夜(日本時間25日未明)。
Asahi.com



開催中の第62回カンヌ国際映画祭の関連部門「監督週間」で14日夜(日本時間15日未明)、日本の河瀬直美監督に功労賞「金の馬車賞」が贈られた。

 授賞式で河瀬監督は、馬車をかたどったトロフィーを王冠に見立て、頭の上に掲げて喜びを表現。「今晩は賞に酔いしれますが、明日からは映画作りの初心者に戻って、この世界に残る映画を作っていこうと思います」と話した。

 式に先立ち河瀬監督の作品「火垂(ほたる)」の再編集版が上映された。

 金の馬車賞は、フランス映画監督協会が2002年に創設し、日本人監督の受賞は初めて。

 河瀬監督は1997年の同映画祭で新人賞、07年には「殯(もがり)の森」で審査員特別大賞「グランプリ」を受賞している。(共同)



★河荑 直美(かわせ なおみ、1969年5月30日 - )は、日本の映画監督。奈良県出身・在住。

経歴
奈良県奈良市紀寺町出身。奈良市立一条高等学校卒業。大阪写真専門学校映画科卒業。平城遷都1300年記念事業協会評議員。なら国際映画祭実行委員会会長を務める。

大阪写真専門学校卒業後、同校の講師を務めながら、8mm作品『につつまれて(山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞受賞)』や『かたつもり(山形国際ドキュメンタリー映画祭奨励賞受賞)』を制作し注目を集める。実父と生き別れ実母とも離別し、母方の祖母の妹に育てられた自らの特殊な境遇から制作された作品の独自性が評価されたものだった。

初の35mm作品であると同時に最初の商業作品として制作された『萌の朱雀(もえのすざく)』にて、1997年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞。その直後に同作品のプロデューサーを務めた仙頭武則と結婚し、活動も仙頭直美名義となったが、のちに離婚したことにより姓を河荑に戻した。再婚後の2004年に第一子(長男)を出産。

第60回カンヌ国際映画祭にて『殯(もがり)の森』が審査員特別賞を受賞。なお、同作品はNHKエンタープライズが製作協力した関係で、劇場公開前の2007年5月29日(グランプリ受賞の2日後)にNHK BS-hiの『ハイビジョン特集』にて放送された。 また、この年の10月に行われた山形国際ドキュメンタリー映画祭のインターナショナル・コンペティション部門で『垂乳女(たらちめ)』が特別賞を受賞した。


主な監督作品
につつまれて(1992)
白い月(1993)
かたつもり(1994)
天、見たけ(1995)
萌の朱雀(1997)
杣人物語(1997)
万華鏡(1999)
火垂(2000)
きゃからばあ(2001)
追臆のダンス(2002)
沙羅双樹(2003)
影-Shadow(2004)
垂乳女~TARACHIME~(2006)
殯の森(2007)
七夜待(2008)