福岡市での3児死亡飲酒運転追突事故で、元同市職員今林大被告(24)に福岡高裁で懲役20年の実刑判決

「懲役20年」…目を真っ赤に、涙流す3児の父母


 ◆判決の瞬間、法廷がどよめいた。「原判決を破棄し、懲役20年に処する」――。福岡高裁501号法廷に陶山(すやま)博生(ひろお)裁判長の声が静かに響くと、大上哲央(あきお)さん(36)、かおりさん(32)夫妻がひざに抱えた3児の遺影が震えた。

 1審判決を上回る重い刑が下されたことに、傍聴席の多くの人が得心した様子だったが、元福岡市職員・今林大(ふとし)被告(24)の弁護人らは「納得いかない」と反発していた。

 大上さん夫妻は黒色のスーツ姿で午前9時40分過ぎ、福岡高裁に姿を現した。哲央さんは、事故で亡くした3児の遺影をえんじ色の包みで覆い、両手で抱えていた。

 懲役7年6月だった1審判決を破棄する判決を聞くと、2人は「ワッ」と声にならない声を上げた。お互いに信じられないといった表情で目を真っ赤にはらし、涙を流していた。

 今林被告側が、「哲央さんの居眠り運転も事故の一因」と主張していたことに、裁判長が「居眠り運転をしていたとは考えられない」と明確に否定すると、安堵(あんど)の表情を見せた。

 「調子に乗るな。何様のつもりか」「金をもらっているんだろう」――。大上さん夫妻は飲酒事故の悲惨さを訴え、メディアに多く登場して注目を集める一方、街頭やインターネットでいわれのない中傷や非難にさらされ続けた。一家は昨年末、世間を避け、事故の影響によるパニック障害療養のため、海外転居を余儀なくされた。

 大上さん夫妻の代理人、羽田野節夫弁護士によると、2008年1月の1審判決後、一家は人目を避けるように、いったん九州を出た。だが、転出先でも「テレビで見た大上さんでしょ」と頻繁に声をかけられた。ついには「大変ですね」と気遣いの言葉さえ、忌まわしい事故の記憶をよみがえらせる心理的な負担となったという。

 「2人はいつも、『人に監視されている』という思いに駆られていた」。羽田野弁護士は振り返る。

 この日の逆転判決を、大上さん夫妻のそばで聞いた羽田野弁護士は、陶山裁判長の言葉を懸命にメモに納めた。

 言い渡し後、傍聴席を立つ哲央さんの肩にポンと手を掛け、穏やかな顔で夫妻のこれまでの苦労をねぎらった。

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今林被告の弁護人「感情的な判決、上告したい」
 福岡市での3児死亡飲酒運転追突事故で、元同市職員今林大被告(24)に福岡高裁で懲役20年の実刑判決が言い渡された15日、今林被告の主任弁護人、春山九州男(くすお)弁護士は「きわめて感情的な判決で、適用条文の要件を一つずつ積み重ねる作業に欠けている印象を持つ。到底納得できず、上告したい」と述べた。


 量刑については「今林被告は『いかなる刑にも服する』と話していたが、懲役20年とは思っていなかったのではないか」と話した。

( 読売新聞)



福岡市東区で06年、飲酒運転で3児を死亡させたとして危険運転致死傷罪などに問われた元同市職員、今林大(ふとし)被告(24)の控訴審判決が15日、福岡高裁であった。陶山博生裁判長は、業務上過失致死傷罪の適用にとどめて懲役7年6カ月(求刑懲役25年)を言い渡した一審・福岡地裁判決を破棄。「酒の影響で正常な運転が困難な状態で事故を起こしたと認められる」として危険運転致死傷罪と道交法違反(ひき逃げ)の罪を適用し、懲役20年を言い渡した。弁護側は判決を不服として、上告する方針。

 01年の刑法改正で施行された危険運転致死傷罪の適用の可否については、一、二審で裁判所の判断が分かれるケースが相次いでいる。

 判決は、危険運転の要件となる「正常な運転が困難な状態」とは、「現実に道路・交通状況に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることだ」として、一審と同じ判断の枠組みを維持した。しかし、事故原因は脇見運転だったとする一審の事実認定を否定して、正反対の結論を導いた。

 判決はまず、一審判決が事故原因を脇見運転とした点について検討。現場の道路が左側が下がっていることから、直進するためには絶えずハンドルを右側に微調整する必要があり長い脇見は不可能だと指摘。事故原因を11.4〜12.7秒にわたる脇見とした一審判決の認定は誤っているとした。

 そのうえで「被告は先行車の存在を間近に迫るまで認識できない状態にあり、道路と交通の状況などに応じた運転操作を行えなかった」と指摘。アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で事故を起こしたとして、危険運転致死傷罪の成立を認めた。量刑の理由で陶山裁判長は「相当量の飲酒をしたうえ、一般道を時速約100キロで走行した行為は危険。結果は誠に重大で、厳しい被害感情ももっとも」などと述べた。

 弁護側は、事故は被告、被害者ともに「不意打ち」だったと主張。被告の脇見運転だけでなく、被害者の居眠り運転や急ブレーキなどの過失が重なって被害が拡大したと訴え、無罪か大幅な減刑を求めていた。しかし判決は、道路の状況などから「(被害者側が)居眠り運転をしていたとは考えられない」と退けた。

 一審の福岡地裁は、危険運転致死傷罪のほかに業務上過失致死傷罪を起訴罪名に追加するよう検察側に命令。08年1月、業務上過失致死傷と道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の組み合わせでは最高刑に当たる懲役7年6カ月を言い渡していた。 Asahi.com


やっと司法に思いが届いた−−。福岡市東区で06年8月に起きた3児死亡事故で、15日の福岡高裁判決は1審・福岡地裁判決を覆し、量刑の重い危険運転致死傷罪を適用した。1審の懲役7年6月は控訴審で懲役20年となった。厳罰を願い続けた3児の両親、大上哲央(あきお)さん(36)、かおりさん(32)夫妻は判決後、会見で3児の遺影を抱いて万感の思いを込めた。しかし、控訴審は判決言い渡し時に出廷の義務はなく、元同市職員の今林大(ふとし)被告(24)の姿は法廷になかった。【江田将宏、金秀蓮、近松仁太郎】

 午前10時、福岡高裁501号法廷。大上夫妻は満面の笑みを浮かべた3児の遺影を抱いて傍聴席の最前列に座った。「被告を懲役20年に処する」。法廷に陶山博生裁判長の声が響くと、夫妻は目を見開き、遺影を持つ手に力を込めた。判決理由の朗読にじっと聴き入り、涙を浮かべて法廷を出た。

 閉廷後の会見で、哲央さんは「私たち夫婦の思いがやっと司法に届き、胸がいっぱいになった」と、一語一語かみ締めるように語った。

 今林被告が問われた危険運転致死傷罪道路交通法違反(ひき逃げ)が併合された場合の最高刑は懲役25年。事故後に懲戒免職となったことなどから5年減らされた。

 かおりさんは「量刑については納得していないが、危険運転致死傷罪が適用されたことは評価できると思います」「この刑事裁判に求めていたのは、彼の行為が過失なのか故意なのか、だった。判決で、罪に服す際の彼の意識が変わってくれるのではないか」と涙をこらえながら話した。

 ◇被告は姿を見せず
 今林被告は姿を見せなかった。法的には出席する必要はないが、哲央さんは「判決を受け止め、反省してほしい」。かおりさんも「私たちのつらい思いを分かってほしくて、家にある一人一人の遺影を持参したのに、それさえ見てもらえなかったことは残念。反省が期待できず、かける言葉はない」と言い切った。

 被害者代理人の羽田野節夫弁護士は「今林被告は口では謝罪しながら、居眠り運転や急ブレーキなど被害者に過失があるような主張を繰り返した。いわれのない過失をあげつらった姿勢が夫婦をいかに傷つけたか」と、被告側の姿勢を厳しく批判。「被告は夫婦に責任転嫁せず、民事上の賠償問題も速やかに解決し、誠意を示して」と呼び掛けた。

 一方の今林被告。07年6月20日の保釈以降、福岡市東区内の自宅で両親と共に暮らしているとみられる。この日は両親ら親族が公判を傍聴。判決後、母親らしき女性がひどく落胆した様子で帰宅した。

 被告をよく知る男性は「犬の散歩を見ることはあるが元気がない。あいさつしても『あいさつなんかしなくて結構ですから』とひどく恐縮していた」と語る。「漁師の仕事もしているようだが、ほとんど顔を見ない。外出しないのが反省の方法なんだろう」と推し量る。

 今林被告は地裁初公判(07年6月)で「ご遺族にどうおわび申し上げていいのか」と謝罪したが、「運転困難になるほどの飲酒はしていない」と起訴内容を否認。同9月の被告人質問でも「飲んでいた時の記憶もはっきりしている」などと深酔い状態を否定していた。
◆福岡3児死亡:控訴審危険運転致死傷罪認定 懲役20年



3児の遺影を持って福岡高裁に入る両親の大上哲央さん(手前)とかおりさん=福岡市中央区で2009年5月15日午前9時42分、矢頭智剛撮影 福岡市東区の「海の中道大橋」で06年8月に起きた3児死亡事故で、危険運転致死傷と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた元同市職員、今林大(ふとし)被告(24)の控訴審判決が15日、福岡高裁であった。陶山博生裁判長は、1審・福岡地裁判決が適用しなかった危険運転致死傷罪の成立を認定し、懲役20年(求刑・同25年)を言い渡した。高裁は、業務上過失致死傷罪などを適用して懲役7年6月を言い渡した地裁判決を破棄した。被告本人は出廷しなかった。被告の弁護人は上告する意向を示した。

 陶山裁判長は「事故原因を脇見運転とした1審判決には事実誤認がある」と指摘した上で、「飲酒の影響で前方注視が困難な状況にあり、被告もその認識があった」と故意性を認定した。

 08年1月の地裁判決は、原因を脇見運転とする今林被告の供述の信用性を認定。最高刑懲役20年の危険運転致死傷罪の成否について「事故前に蛇行運転や衝突事故もなく、水の持参を頼んだ言動などから判断能力を失っていない」とし、酒気帯び運転と断定した。

 その上で、現場まで道路状況に応じてハンドル操作していることや、事故から48分後の飲酒検知の数字が呼気1リットル当たり0.25ミリグラムで警察官が「酒気帯び状態」と認定した検知結果を重視し、「飲酒の影響で正常な運転が困難だった」との検察側主張を否定。業過致死傷と道交法違反の罪を併合した最高刑を言い渡した。

 控訴審で検察側は、現場での走行実験を収めた動画を新たに提出。「現場付近の道路は横切る形でこう配があり、前を見てハンドル操作しないと直進できない」と脇見運転を否定。「飲酒の影響で前方注視を怠った」と主張し、改めて危険運転罪の適用を求めた。

 危険運転罪は▽正常な運転が困難な飲酒や薬物摂取▽制御困難な高速走行−−などで人を死傷した場合に適用される。死亡させた場合の最高刑は懲役20年だが「故意」の立証が難しく、適用件数は年間300件前後にとどまる。3児死亡事故では地裁が結審後、検察側に予備的訴因として業過致死傷罪の追加を命令した。

 福岡高検の庄地保・次席検事の話 適正・妥当な判決であると思っている。

 今林被告の主任弁護人、春山九州男弁護士の話 外部的に観察できない視認能力の有無に危険運転致死傷罪の適否を求めた今回の判決は従来の判例に反しており無理がある。

 ◇判決の骨子
・道路は左側が低くなるこう配があった。直進するにはハンドルの微修正が必要。長時間の脇見とした1審判決は誤り。

・先行車の存在を間近に迫るまで認識できない状態にあり、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態。危険運転致死傷罪が成立する。

・相当量の飲酒をし、時速約100キロで走行した行為は危険。3人の死の結果は重大。厳しい被害感情ももっともで被告の責任は極めて重い。

 ◇福岡・3児死亡事故
 今林被告は06年8月25日夜、飲酒後に車を運転し、大上哲央(あきお)さん(36)一家5人が乗ったレジャー用多目的車(RV)に時速約100キロで追突して博多湾に転落させ、長男紘彬(ひろあき)ちゃん(当時4歳)▽次男倫彬(ともあき)ちゃん(同3歳)▽長女紗彬(さあや)ちゃん(同1歳)の3人を水死させ、哲央さんと妻かおりさん(32)を負傷させた。被告は現場から約300メートル逃走した。

毎日JP