美しい日本語と小津と原節子

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公園での母子の会話である。「お母様とてもつくしんぼうさんが可愛いので採ってまいりましょうか」「つくしんぼうさんが痛がりますからおよしなさい」
読者はどう受け取りましたか。時代錯誤もはなはだしい?いいえ、わ・た・し・は(さそり座の女♪~~~~じゃなくて)美しい日本語の保存会の会長?として、言わせてもらうなら「いいんデないの」(若干訛りあり)「お母様」とは何と素晴らしい響きなんでしょ。「父ちゃん、母ちゃん」で育った私には残しておきたい言葉の一つです。茎を折るとつくしが痛がるという繊細な感情、これは日本の伝統美なのです。
小津安二次郎の作品をご覧下さい。せりふ一つ一つが美しい日本語の宝庫であり、テキストなのです。それを原節子[日本映画史上最高の伝説的美人女優で、銀幕を去ってからは一度も民衆の前に姿を現さなかった永遠の映画スターです。演技もさることながら素晴らしく美しい女性です。「青い山脈」(今井正監督作品)からの役が彼女のイメージによく合う]、
香川京子(現役)、淡島千景(麦秋に出演)が喋るんです。こたえられません。原節子が画面に出ているだけでいいのです。普段のふるきよき時代をさりげなく描いた映画群なのですが別世界に誘ってくれます。小津作品には、「晩春」(1949年)「麦秋」(1951年)「東京物語」(1953年)「秋日和」(1960年)などがありますので時間がありましたら一度ご覧下さい。私は「麦秋」が好きです。何事にもいえることですが一流品を見て、聞いて、体感する事によってはじめて審美眼が養われるものです。審美眼さえあれば世界はばら色に輝くことでしょう。ラ~~~♪ラ・ラ・ラ♪ラララ〜〜♪(「ばら色の人生」、エディット・ピアフ)
東京物語」は世界映画のベスト3に必ず入る映画である。景色も俳優も全てよし。ローアングルのカメラワークもいいですね。日本人は畳の生活で座る事が多いのでローアングルが最も美しく取れると思ったのだと思います。

東京物語」(DVD、ビデオ有り、笠智衆東山千栄子と共演)より
紀子(原節子)「いいえ、お父様、お母様、お疲れになったでしょう」
紀子「いいえ、お母様こそ、おやすみになりましたら?」

ほんの一部ですが日本語の美しさを味わっていただけましたでしょうか。(文法や現代性は考慮に入れてはいません)間の取り方も素晴らしい感覚です。
その他の美しい日本語の一例(独断と偏見)として季節を考慮して、挙げておきましたのでご賞味下さい。(入門編として)
「名残雪」(冬を惜しむかのようにそっと降る雪)=涅槃雪=忘れ雪
「残雪」(春になってもお消え残っている雪)=宿雪
「春雷」(春先に鳴る雷)語感が良い
「東風」(東から吹く春風)
「朧月」(ぼんやりと霞んだ春の夜の月)
「花曇」(桜の花の咲くころのうす曇の天気)
「さえずる」(鳥がしきりに鳴く)
「遣らずの雨」(客を返さない為かと思われるように降ってくる雨)
「たおやか」(しなやかで優美な様、例、たおやかに咲く花)etc.・・・・・・
どれをとっても日本の季節ならではの広がりのある、奥深く繊細な美しい言葉では有りませんか。日常使って欲しい言葉です。
番外編「いずい」(仙台弁で何となく違和感のある様、残しておきたい方言NO.1)

東京物語(TV版) [DVD]

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小津安二郎 DVD-BOX 第三集

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